消費税不正還付の実態と課税当局の対策
国税庁レポート2023によると、令和5年度の国の歳入(当初予算)は114.4兆円のうち、69.4兆円(60.7%)が租税及び印紙収入が占めております。そのうち、23.4兆円、33.7%が消費税(14.6兆円、21.0%が法人税)であり、最も金額が大きい税目となっています。
この消費税において制度を悪用し、虚偽の内容を申告して消費税の還付を不正に受けようとする事案が後を絶たず、課税当局ではその対策に取り組んでいます
1 消費税不正還付の実態
消費税不正還付の手口は巧妙化・多様化しており、次のような手法が見受けられています。
⑴ 架空取引の計上
実在しない架空の取引を計上する手口です。例えば、輸出業者が架空の輸出取引(免税売上)を計上して国内で仕入れた際の消費税額の還付を受けるという事例がありました。この場合、偽造された請求書や輸出許可書を用いることが多いようです。
⑵ 免税店制度の悪用
輸出物品販売場の許可制度を利用し、実際には販売されていない商品を非居住者(インバウンド旅行者)にあたかも販売(免税売上)したかのように偽装する手口です。例えば、輸出物品販売場の免税店が架空の外国人観光客の名前やパスポート情報を使用して虚偽の売上を計上し、消費税の還付を不正に受けていた事例がありました。
⑶ 仕入過大計上
仕入先と共謀して仕入額を過大に計上し、仕入税額控除を多く計上して還付を受ける手口です。これは実在する取引を基にしているため、見破るのが難しい場合があるようです。
2 小括
消費税は原則として売上等に係る消費税(仮受消費税)よりも、仕入等に係る消費税(仮払消費税)が大きい場合は、その差額が還付されます。したがって、故意に仮受消費税の額を過大に計上するほか、仮払消費税の額を過少に計上するなどにより不正に還付を受けているようです。
3 国税庁の対策
課税当局は、これらの不正行為を防止するために多岐にわたる対策を講じています。以下はその主な取り組みです。
⑴ 消費税不正還付の対策本部を設置
2022年に東京国税局が消費税不正還付の対策本部を設置したのは、近年増加する消費税不正還付の問題に対応するための重要な一歩です。消費税不正還付は、特に輸出取引や免税店制度を利用した不正行為が増加傾向にあり、これにより税収が減少し、税制の公平性が損なわれています。こうした状況を受け、東京国税局は不正還付の取り締まりを強化し、適正な税務運営を確保するために、全国の国税局でも初めて対策本部が設置されました。
⑵ 厳格な審査と現地調査
課税当局では多額な消費税還付申告書について、内容を詳細に審査し還付申告内容の事実確認に必要な書類を求めるほか、必要に応じ実地の調査に移行することもあるようです。
また、取引先の現地に赴き実態の確認や所轄税務署にて申告書の閲覧を行い、還付相当の適否検討を行っています。
⑶ 電子申告・電子納税の推進
電子申告の義務化により、申告内容の透明性と正確性を高めています。また、電子インボイスの導入を進め、取引の記録を電子化することで、不正行為の発見を容易にしています。電子システムを利用することで、リアルタイムでのデータ分析が可能となり、還付相当の適否検討に寄与しています。
⑷ データ分析と情報連携
ビッグデータを集約して取引パターンや申告内容を分析し、異常な取引や不自然な消費税申告書の抽出を行います。また、他の税務当局や関係機関と情報を共有し、グローバルな視点で不正行為を防止します。例えば、国際取引に関するデータベースを活用して、疑義ある取引の抽出をすることができるようです。
⑸ 法令の改正と周知
不正還付の手口に対応するため、法令を適宜改正し、罰則を強化しています。また、事業者向けにガイドラインを提供し、説明会を開催して正しい申告の方法や不正還付のリスクについて周知しています。特に、消費税の適用範囲や仕入税額控除の条件についての明確な指導を行うことで、過失による不正還付の発生を防いでいます。
⑹ 国際協力
他国の税務当局と協力し、国際的な取引に関する情報を交換することで、グローバルな不正行為を防止しています。例えば、経済協力開発機構(OECD)やその他の国際機関と連携し、クロスボーダー取引における不正行為を監視・取り締まる枠組みを強化されています。
⑺ 罰則の強化
課税当局の実地の調査において消費税不正還付が認められた場合、重加算税を課するなど厳しいペナルティが与えられます。さらに、悪質なケースでは刑事告発を行うなど立件に繫がっているケースがあるようです。
4 小括
課税当局としては、あらゆるデータを基にその商流について分析・検討を行うほか、同規模・同業種の比較検討などから、調査優先度を抽出して実地の調査に結び付けているようです。
まとめ
多くの納税者の方々が正しく申告・納税をする一方で、消費税の制度を悪用して取引をしたように見せかけるなど虚偽の内容を申告して、消費税の還付を不正に受けようとする行為は、消費税制度に対する納税者の信頼を著しく害する行為であり、税制の公平性を脅かす重大な問題です。
課税当局の厳格な対策と新しい制度の導入により、この問題に対処するための強力な基盤が築かれています。今後も課税当局は、公平で公正な税制運営を実現するために、不断の努力を続けることでしょう。社会全体としても、税務に関する正しい知識と意識を持ち、共に不正行為を防ぐための取り組みが喫緊の課題と思われます。