デジタル賃金払いの現状と課題:期待と現実のギャップ

2023年(令和5年)4月に解禁された「賃金のデジタル払い」。キャッシュレス化の進展が期待される中で、企業の導入意欲には大きな壁が存在しています。帝国データバンクの調査では、約9割の企業が「導入予定はない」と回答。利便性を評価する声がある一方で、導入には多くの課題が立ちはだかっています。
現場の声:導入に慎重な理由
調査によると、企業が導入に消極的な理由として最も多かったのは「業務負担の増加」でした(61.8%)。
例えば、デジタル払いと従来の口座振り込みを併用する場合、システムの二重管理が必要となり、事務作業が煩雑化するとの指摘があります。また、「制度やサービスに対する理解不足」(45.0%)や「セキュリティリスク」(43.3%)も懸念材料として挙げられています。
中には「必要性を感じない」という声もあり、特に中小企業ではコストやリソースの観点から優先順位が低いと考えられているようです。
「前向き」な企業の期待と課題
わずか3.9%の企業が「前向き」と回答。期待されるメリットとしては、振込手数料の削減(53.8%)や従業員の満足度向上(42.3%)、日払いや前払いの容易さ(32.7%)などが挙げられました。
ただし、こうした企業でも「実際の事務作業や手数料について詳しく知りたい」という声があり、導入の判断を下すには情報不足が障壁となっています。
帝国データバンクの提言:普及への道筋
デジタル賃金払いの普及に向けて、帝国データバンクは以下の3つを提言しています。
①きめ細やかな情報周知
制度の詳細、具体的な導入手順、コストメリットの明確化が必要です。特に中小企業向けには、簡易的なガイドラインが求められるでしょう。
②セキュリティの強化
サイバーリスクを懸念する声が根強い中、安心して利用できる環境整備が急務です。多要素認証やデータ暗号化技術の採用が期待されます。
③消費者と企業の意識向上
企業だけでなく、消費者側のデジタル払い利用を促す施策が必要です。店舗やオンラインでのキャッシュレス利用環境の整備、また消費者向けのキャンペーンやインセンティブが効果的でしょう。
未来に向けた展望
賃金のデジタル払いは、利便性の向上やコスト削減の可能性を秘めた制度です。しかし、現時点では情報不足や業務負担の増加、セキュリティリスクへの懸念が普及の足かせとなっています。
企業が導入のメリットを実感できるよう、政府や関連機関の積極的な支援が必要です。また、消費者がキャッシュレスの利便性を日常生活で感じられるような環境作りが、制度の浸透を後押しするでしょう。
デジタル化の波が避けられない中、適切な対応策を講じることが、この新しい支払い方法を成功へ導く鍵となるのではないでしょうか。