「中小企業の経営資源集約化税制」スタート M&Aリスク対応の準備金を損金算入可能
改正中小企業等経営強化法が先日、参院本会議で可決成立し、6月16日施行されたことから、同法の施行を前提とする「中小企業の経営資源集約化税制(中小M&A税制)」が同日スタートしました。2021年度税制改正で創設された同税制は、一定の要件を満たした場合に中小企業者はM&Aで購入した株式の取得価額の一部損金算入などができます。2021年6月16日から2024年3月31日までに経営力向上計画の認定を受けた株式等の取得に適用されます。
中小企業がM&Aを実施する場合、買収後に簿外債務や偶発債務等が発覚する、粉飾決算していたことが判明するなどさまざまなリスクが存在します。しかし、投資を行うに当たって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを事前に発見するための作業であるデューデリジェンスは、時間、手間、コストといった点で買い手企業の負担になるため実施されないこともあり、いかにM&A実施後のリスクに向き合うかが課題となっていました。
経営資源集約化税制は、経営力向上計画の認定を受けた中小企業者(青色申告法人)が、他の法人の株式等の取得(購入による取得に限り、その株式等の取得価額が10億円以下のものに限る)をし、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日までに引き続き有している場合、株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その金額の損金算入を認めるというものです。
上記により積み立てた準備金の金額は、その株式の全部又は一部を有しなくなった場合やその株式等の帳簿価額を減額した場合等に取り崩すほか、5年間の据置期間経過後、原則として5年間で均等額を取り崩して益金算入します。
中小企業者が、節税になるという理由から準備金を積み立てるようになれば、株式価値低落による損失(簿外債務、偶発債務等)などM&Aの潜在的リスクもある程度吸収可能となると期待されています。
実務上の留意点としては、(1)株式の取得前に、改正強化法の経営力向上計画を作成・申請し、認定を受ける必要がある、(2)M&A前後の多忙な時期に煩雑な事務処理が必要になる可能性がある、(3)中小企業経営強化税制の2年延長に加え、対象設備の範囲に、本計画の実施に必要なM&A後の設備投資が含められ、M&Aに伴い、複合的な税制の活用が可能になるため、各制度の適用要件を把握する必要があることが挙げられます。