利益相反取引
利益相反とは、取締役が自己または第三者の利益を図るために、会社の利益を犠牲にするような可能性のある取引や行為を行うことです。
例えば、取締役が自分の関係会社との取引を行ったり、個人的な利益のための取引を行ったりする場合が該当し、会社法(356条)は、取締役と会社との間で利益が対立する可能性のある取引を「利益相反取引」として規制しています。
利益相反取引は、取締役の忠実義務(355条)や善管注意義務(330条)と相反し、会社や株主の利益を害する恐れがあるので、取締役が自己又は第三者のために会社と取引しようとする場合には、その取引について重要な事実を開示し、株主総会または取締役会の承認を得てから行わなければなりません。
利益相反取引は、直接的取引、間接取引、競業避止義務に分類されます。
直接取引による利益相反とは、役員が自分自身やその関連会社と直接取引を行うことによって、会社の利益が損なわれる可能性がある場合をいいます。具体的な事例としては、市場価格より低い価格での財産の売却または高い価格での購入、市場金利より低金利での借入または高利での貸付などが該当します。
間接取引による利益相反に該当するケースとしては、取締役が代表を務める別会社への業務委託。取締役の個人的な借り入れに対する債務保証などが該当します。
競業避止義務は、取締役が自社と同じ事業を営むことを制限するもので、取締役が競業他社の取締役に就任すること、取締役が自社の事業と同様または類似の事業を営む別会社を設立することなどが該当します。
利益相反取引に該当する場合でも、取引に関する重要な事項を開示し、
・取引の具体的な内容と条件
・取引の必要性
・取引条件の妥当性(市場価格との比較など)
・会社にとってのメリットとデメリット
等の点について十分に協議した上で、株主総会または取締役会の承認を得ることができれば取引を行うことは可能です。
商法上の取扱いは上記のとおりですが、同族会社、特に特定の取締役と(完全)支配関係にある法人にあっては、同族会社の行為計算否認(法人税法132条、所得税法157条、相続税法64条)が適用されないように注意しなければなりません。
同族会社の行為計算否認は、同族会社が行った行為又は計算が、税負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に、税務署長は本来あるべき税額に計算しなおすことができるという制度です。
この制度の適用を受けないために次の点に留意してください。
・取引は経済的に合理的か
会社と役員の取引は、独立した第三者との取引と比較して価格設定や取引条件に異常は認められない。
・事業目的は明確か
その取引が「コスト削減のため」「事業拡大のため」など、会社の事業にとって合理的な必要性がある。
・客観的な証拠を残す
取引の正当性を証明するために、契約書、議事録、価格算定の根拠資料などを作成し、意思決定のプロセスや合理性を担保する。
利益相反取引には、損害賠償を請求される、追加の税負担を求められるなどのリスクが伴うので、取締役と会社の取引や取締役の他法人への関与などを把握した場合には、事実関係を正確に把握した上で対応していく必要があります。
商 法
第356条 競業及び利益相反取引の制限
取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第108条の規定は、前項の承認を受けた同項第2号又は第3号の取 引については、適用しない。
第595条 利益相反取引の制限
業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をしようとするとき。
二 持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において持分会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第108条の規定は、前項の承認を受けた同項各号の取引については、適用しない。
民法 第108条(自己契約及び双方代理等)
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
法人税法 第132条 同族会社等の行為又は計算の否認
税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
所得税法 157条 同族会社等の行為又は計算の否認等
税務署長は、次に掲げる法人の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者(その法人の株主等である非居住者と当該特殊の関係のある居住者を含む。第4項において同じ。)の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の第120条第1項第1号若しくは第3号から第5号まで(確定所得申告)、第122条第1項第1号から第3号まで(還付等を受けるための申告)又は第123条第2項第1号、第3号、第5号若しくは第7号(確定損失申告)に掲げる金額を計算することができる。
相続税法 第64条 同族会社等の行為又は計算の否認等
同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合においてはその株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税についての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を計算することができる。
