医療費控除と医療保険等の補てん金の取扱い ~年をまたいだ場合~
医療費控除は、納税者が自己または家族のために支払った医療費のうち、一定額を所得金額から差し引くことができる制度であり、確定申告において節税効果をもたらす重要な仕組みです。
この控除の対象となる医療費は、原則として「実際に支払った年」に属するものであり、治療を受けた年ではない点に注意が必要です。
1 医療費控除の額
昨年に手術を受けて入院し、今年に退院した場合、病院に支払った費用が100万円のうち80万円を昨年12月に、残りの20万円を今年1月に支払ったとします。
この場合、支払額のうち80万円は昨年分の医療費控除の対象となり、20万円は今年の医療費控除の対象となります。
医療費控除は支払時期に基づいて計算されるため、年をまたいで支払いが行われた場合は、現実に支払いがあった日(領収日)によって判定されます。
2 医療保険等の補てん金額
この入院に対して医療保険等から補てん金として50万円を受け取った場合、その補てん金の取り扱いにも注意が必要です。医療費控除の計算において、補てん金は「医療費の補てんを目的とするもの」である場合、支払った医療費から差し引く必要があります。
ただし、補てん金を受け取った年にまとめて控除するのではなく、医療費を支払った年に応じて按分して控除するのが原則です。
3 按分計算
上述ケースでは、医療費の支払いが80万円と20万円で、比率は4:1となります。したがって、補てん金50万円のうち、80万円に対応する部分(4/5)は40万円、20万円に対応する部分(1/5)は10万円となります。これを踏まえると、昨年の医療費控除対象額は80万円から40万円を差し引いた40万円、今年の医療費控除対象額は20万円から10万円を差し引いた10万円となります。
4 未確定な補てん金額
補てん金の額が確定申告の時点で未確定の場合には、見積もり額を用いて申告することが認められています。後日、当該補てん金の確定額と当該見込額とが異なる場合には、修正申告又は更正の請求の手続により訂正します。
5 まとめ
年をまたいで支払った医療費に対する医療保険等の補てん金の取り扱いは、支払年ごとの医療費に対応させて慎重に計算する必要があります。
正確な申告を行うことで、制度の恩恵を最大限に受けることができるため、医療費の支払時期と医療保険等の補てん金の受取時期、そしてその金額の関係をしっかりと把握しておくことが重要と思われます。
《参考法令》
所得税法73
所得税法施行令30
所得税基本通達73-2、73-8、73-9、73-10
国税通則法19、23
《参考URL》
国税庁(No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除))
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
国税庁(保険金などの補てん金が未確定の場合)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120_qa.htm#q2
